近現代中国における芸術作品の制作背景と作品評価
芸術作品が作り出されるときというのは一体どんなときだろうか。鑑賞者は芸術作品を評価する際、作品そのものの美しさだけでなく、その制作背景を読み解き評価の一助とする。また、芸術家にとって制作背景は自明である場合もあるが意識されていないきっかけというものもあるだろう。制作背景には内的要因、外的要因様々なものがあると考えられるが、近現代中国の芸術史においてはどうだろうか。近現代中国における芸術作品の制作背景を以下四点に大きく分類し、近現代の芸術作品の評価について考えていきたい。
まず「新たな表現方法の探求」が挙げられる。一九二〇年代の新文化運動や一九八〇年代の八五美術運動においてこれまで中国国内にはなかった欧米美術の技法を取り入れ、新たな文化の醸成や中国絵画の発展を目指す動きがあった。
次に「政治的圧力への迎合あるいは反発」が挙げられる。一九六六年から十年間続いた文化大革命により、美術界は社会主義思想への奉仕と政治権力者への賛美を強いられ毛様式の作品を反復生産することになった。また一九八九年の天安門事件により、八五美術運動によって生み出されかけた熱心な美術運動も抑圧され、自由な芸術活動が制限されることになった。このような政治的圧力に反発する形で、文化大革命が終結したあとは羅中立の作品に見られるようなありのままの現実を表現したもの、天安門事件後はシニカル・リアリズムによる虚無感を提示したものが出現した。
さらに「市場経済による被支配」が挙げられる。政治的圧力による挫折感、虚無感が美術界に蔓延していた。しかしその挫折感を感じさせるはずの文化大革命や天安門事件が、販売戦略としてあえて中国らしさのある商品価値を保証するモチーフとして作品に配置されることになる。一九九◯年代以降からこのような特徴を持つ作品が大量生産され高値で消費されている様子がみられる。
最後に「民衆への社会問題の提示」が挙げられる。災害や戦争で命を落とした人々への祈り、伝統文化の蘇生、ゴミをはじめとした環境問題など、社会的活動と密接な関係にある芸術作品が生み出されている。しかしこのような芸術活動が自由に中国国内で行われているわけではなく、中国当局からの監視や拘束を受ける芸術家も存在している。
以上のように四点はそれぞれが完全に独立するようなものではなく、互いに複雑に干渉し合っているものが多い。そのため制作背景の読解や制作物の正常な評価が困難な状況が生まれつつある。これは中国に限定される事象ではなく、世界各国、国単位でも個人単位でもどの規模においても当てはまる。制作背景が複雑化した作品が生み出されるとき、芸術家が作品制作に込めた意図や願いを正しく読解・評価する努力が鑑賞者に求められる。また、芸術家自身も真摯な作品発表をしていくことが求められるのではないだろうか。
作成日 2024.08.25
出典・参考文献:
・林洋子『芸術教養シリーズ 08 近現代の芸術史 造形篇Ⅱ アジア・アフリカと新しい潮流』藝術学舎、2013