同原作をもつ作品で比較するディズニーと宮崎駿の違い
アニメーションというサブカルチャーは、子どもやオタク向けの娯楽と評される時期があったものの、今やディズニーやスタジオジブリの制作する作品は国籍や属性によらず多くの人が親しんでいる。世界的な人気作品を制作する両アニメスタジオだが、扱う作品が示すメッセージや作品の制作意図には違いが認められる。それぞれのスタジオを代表する人物、ウォルト・ディズニー(Walt Disney,1901~1966)と宮崎駿(1941~)の作家性の特質をそれぞれまとめたうえで、両スタジオが生み出す作品の違いを検討していきたい。
ウォルト・ディズニーは幼少期を過ごした環境の影響から開拓者精神が強く、目指す創作は安全性や快適さ、清潔さを主とした「現実から切り離された、虚構の別世界(*1)」であるといえる。また、ディズニーの発展の背景には豊かな消費社会があり、そのなかで戦略性高く世相の流れや需要に応えるアニメーションを作り出してきた。
宮崎駿は裕福な家庭で戦時下を過ごし、その体験が少なからず作品へ影響を与えている。呪いを帯びた獣と人間、大自然の脅威、そしてマジョリティからの視点だけではなくマイノリティからの視点を物語に描き、登場人物を善悪で二分することはない。よってストーリーは複雑であるが、自立した人間像は登場人物として頻出する傾向がある。
両スタジオは、アンデルセン(Hans Christian Andersen,1805~1875)による『人魚姫』を原作とした作品を製作している。ディズニーにおいては1989年発表のアニメーション映画『リトルマーメイド』、スタジオジブリにおいては2008年発表の 『崖の上のポニョ』である。両スタジオはハッピーエンドとして再解釈され、家族に焦点が当てられている点では同じだ。違いとしてはディズニーでは明確な悪役が配置され勧善懲悪がなされるが、スタジオジブリでは明確な善悪は存在しない。
また、ボーモン夫人(Jeanne-Marie Leprince de Beaumont,1711~1780)による『美女と野獣』を原作とした作品も、ディズニーは1992年発表のアニメ-ション映画として、宮崎駿は『もののけ姫』という絵本として1993年に発表している。ディズニーにおいては、ジェンダー論に焦点を当てるなどの特徴がみられる。宮崎駿による絵本は物語の起点は原作に寄っているものの終点はオリジナルとなっておりあるがままを受け入れ生きていく主人公たちの姿が描かれている。これはスタジオジブリの同タイトルアニメーション映画にも通ずるところがある。
以上、ディズニーとスタジオジブリそれぞれの作品の違いを、代表する人物や原作を同じとする作品を比較してきた。同じ原作を用いても全く異なる作品を生み出していることがうかがえ、これは作家及び制作スタジオを取り巻く文化や環境の違いによるものだと考えられる。今回比較検討したものはアニメーション映画だが、媒体に関わらず作品同士が互いに影響し合って文化はこれからも発展していくのだろう。作品そのものだけでなく作品同士の相互作用も含めて鑑賞していきたい。
作成日 2025.02.27
出典・参考文献:
(*1)森山直人『芸術教養シリーズ 16 近現代の芸術史 文学上演篇Ⅱ メディア社会における「芸術」の行方』藝術学舎、2014、p160
ハンス・クリスチャン・アンデルセン『人魚の姫』矢崎源九郎 訳、青空文庫、2019
https://www.aozora.gr.jp/cards/000019/files/58848_67709.html(2025年2月27日閲覧)
ボーモン夫人『美女と野獣(グーテンベルグ21)』鈴木豊 訳、グーテンベルグ21、2023
宮崎駿『もののけ姫』徳間書店、1993
宮崎駿『風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡』ロッキング・オン、2002